2019年
7月
3日
|
08:00
Europe/Amsterdam

二度目の正直

ランゲ1・ムーンフェイズの組立工程

ランゲ1・ムーンフェイズを構成する部品数は438個にのぼります。これらの部品の製作では、100分の1ミリ単位の寸法公差を厳守しなければなりません。ランゲ1・ムーンフェイズは手巻き式で、誤差が1日分に達するのに122.6年かかるという高精度のムーンフェイズ表示とランゲ1のクラシックモデルが持つ特徴が融合した時計です。複雑機構の中で最もロマンチックとも言えるムーンフェイズ表示にデイ・ナイト表示を統合するというユニークな発想により、ムーンフェイズに新たな楽しみ方が加わりました。この時計も、すべてのランゲウォッチと同じように、二度組工程を経て完成します。

ムーンフェイズ表示は、時計史の中で最も古い複雑機構の一つです。古くから人類は、月の周期とその影響を理解しようとしてきました。例えば、古代ギリシャ人は太陽と月の動きと位置を計算するために、「アンティキティラ島の機械」と呼ばれるアナログコンピュータを開発しました。表示器の多くは暦を目盛りで示すものでしたが、その中には月の目盛りが付いた太陽暦もあります。

2002年に発表されたランゲ1・ムーンフェイズは、A.ランゲ&ゾーネ初のムーンフェイズ表示搭載モデルです。それ以来、この時計はランゲ1 ファミリーで不動の地位を築いています。2017年に新たに開発されたキャリバーL121.3は、デイ・ナイト表示をムーンフェイズ表示に統合することを可能にしました。すべてのランゲウォッチと同じように、このモデルも二度組工程を経て完成します。高度な職人技が求められるこの難しい工程の手順を、これから詳しくご紹介します。

ツインバレル

1994年に発表されたランゲ1は、当時としては異例の巻上げ機構を搭載していました。それは、ダイヤルにプリントされたドイツ語「Doppelfederhaus」が示唆するツインバレルです。2015年に発表したランゲ1の新作に搭載された新開発キャリバーにも、ツインバレルを採用しています。ランゲ1・ムーンフェイズのベースムーブメントは、ランゲ1と同じものです。どちらの香箱にもゼンマイが一つ入っており、二つで72時間分の動力を蓄えます。手作業でペルラージュ仕上げを施した地板に香箱を取り付けます。

香箱の表面にはサンバースト模様(図中右)が入っています。この螺旋模様は、香箱の巻上げ機能を表します。どちら香箱にも、円模様彫り加工を施した角穴車(図中左)を取り付けます。一次組立てでは、二次組立作業で正確に位置合わせできるように、二つの香箱に極小の合印を付けます。

輪列の組立て

A.ランゲ&ゾーネの理念の根幹を成すのは、時計技法のあらゆる観点に対する敬意をはらうことです。ムーブメントの数多くの部品は4分の3プレートに隠れてしまうため、時計を身につける人には見えません。それでも、ほぼすべての部品に手作業でさまざまな仕上げ装飾を施しています。

大小さまざまの歯車からなる輪列の一次組立てには、多大な労力と時間がかかります。一つひとつの歯車の歯が、隣接する歯車の歯と理想的な形でかみ合うようにしなければなりません。

縦あがきの調整

一次組立工程では、4分の3プレート上で何度もビスを締めたり緩めたりしながら、輪列の歯車がスムーズに連動するように、すべての縦あがきを調整します。軸に適切なあそびを持たせてできる限り摩耗を防ぎつつ、回転精度を高くするため、受け石を100分の1ミリ単位の寸法精度でゴールドシャトンのしかるべき位置に固定します。究極の繊細さでじっくりと時間をかける必要があるこの作業には、受け石固定機を使用します。

4分の3プレートだけでなく、地板と受けはすべて洋銀製です。この素材は銅、亜鉛、ニッケルの合金で、その優れた特性により高く評価されていますが、水分と酸に弱いことが、二度組の主な理由の一つでもあります。指紋が一旦ついてしまうとなかなか消えないため、ランゲの時計師は全員、指サックを付けています。

4分の3プレートの組立て

一次組立てと二次組立ての間に、4分の3プレートにグラスヒュッテストライプ模様を付けます。さらに、ムーブメントの部品をすべて洗浄して作業台に並べ、二次組立ての準備を整えます。そしてゴールドシャトンを磨き上げ、二次組立ての過程で一次組立てに使用した仮止め用ビスを青焼きしたスチール製ビスに替えていきます。

素材の特性を生かしたままの洋銀は時間の経過とともに、金色に変化していきます。洋銀はこの古ツヤによって風合いが増し、グラスヒュッテストライプを一層引き立てるという審美的効果を発揮します。

脱進機の組立て

輪列の最後の歯車は、ガンギ車です。これをスチール製アンクルでテンプに連結します。アンクルがムーブメントの適切な位置に納まるように、ツメ石を調整します。位置が決まると、そのアンクルを他のアンクルと交換することはできません。

テンプが振動するごとにアンクルが左右に振れ、それによってガンギ車の歯が解放されます。この動きを介して、決められた量の動力が調速機に伝えられます。入念に面取りをして研磨した角、鋭く仕上げた角、切削模様を付けた側面、鏡面仕上げを施した表面あるいは切削模様の入った表面を傷つけないように、細心の注意を払いながら組立作業を行います。

調速機の組立て

機械式時計の心臓部であるテンプは、4分の3プレートに隠れない場所に取り付けられます。ランゲ自社製フリースプラング式ヒゲゼンマイを備えた大型偏心錘付きテンプを支持するのは、ハンドエングレービング入りテンプ受けです。1時間に21,600回、チクタクというかすかな振動音が聞こえます。

調整

ムーブメントを五姿勢で調整します。一つひとつの偏心錘が回転すると、錘の質量がずれてその重量が適切な位置に配分されます。テンプの動きは錘が内側に向くように回すと速くなり、外側に向くように回すとゆっくりになります。使用する特殊工具には、ネジの溝にぴったりと合う刃が付いています。

ムーブメントをケースに収めた後、歩度測定器で時計の精度をもう一度点検します。A.ランゲ&ゾーネのムーブメントの精度は、厳しいクロノメーター認定基準以上の水準に達します。

パワーリザーブ機構の取付け

パワーリザーブ機構の部品を、ダイヤル側にあるペルラージュ模様で飾られた地板に取り付けます。どの歯車にも、入念に円模様彫りを入れます。写真は、この機構のハックバネを取り付けるところです。この配置により、72時間のパワーリザーブがなくなると時計が停止します。ダイヤルのAUF/AB表示で、パワーリザーブ残量が分かります。

アウトサイズデイト機構の取付け

アウトサイズデイトは、A.ランゲ&ゾーネの腕時計ならではの特徴の一つです。この日付表示は、同サイズの時計の約3倍もの大きさです。フレームに縁取られた二窓型のデザインは、ドレスデンのゼンパー歌劇場にある有名な五分時計に由来します。この五分時計は、1841年に若かりし頃の創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲが師であったヨハン・クリスチャン・フリートリッヒ・グートケスと一緒に製作したものです。

この機構は独立した二つの表示面で構成されています。その一つは、0~9の数字が刻まれたリング状の一の位表示用ディスクで、1日に1回進みます。もう一つは、1~3の数字と空白からなる十字形の十の位表示用ディスクで、10日に一度だけ進むようになっています。ランゲ1・ムーンフェイズ“25th アニバーサリー”では、数字がブルーでプリントされています。深夜12時に進む2枚の数字ディスクの間には、わずか0.15ミリの隙間しかありません。この巧妙な機構の取付けには、非常に繊細な指先の勘が求められます。

ムーンフェイズ表示の取付け

ムーンフェイズ表示を構成する70個もの部品を自社製キャリバーL121.3に巧みに組み込み、ランゲ1のキャリバーL121.1とほぼ同一のサイズに仕上げます。このデイ・ナイト表示と一体型のムーンフェイズ表示は2層構造になっています。ブルーでコーティングしたゴールド無垢製天空ディスクは、24時間をかけて1周します。このディスクのブルートーンは、1日の時間の経過とともに変化します。日中は明るい青空が広がり、夜になると紺碧の夜空にコントラストも鮮やかにレーザー光で刻まれた星々がきらめきます。こうして実際の昼夜を表す空を背景に、ゴールド無垢製の月がその軌道を周回します。また、時刻を調整する際には天空ディスクがデイ・ナイト表示として機能します。このムーンフェイズ表示は、歯車の独特な配置により誤差が1日分に達するまでに122.6年かかるという高精度で、月はスルスルと滑らかに動き続けます。

ダイヤルを取り付ける前の最後の作業として、二つの月で構成されるムーンディスクを慎重にダイヤル側に取り付けます。

潤滑

ムーブメントの組立工程では、さまざまな油脂を使用します。これらの油脂は、用途に合った理想的な潤滑効果が得られるようにさまざまな添加剤を含んでいます。かかる圧力はわずかでも高速に耐えねばならない軸受けがあれば、大きな圧力に耐えてゆっくりと回転するカナもあります。急激に加速されたかと思うと急ブレーキがかけられる部品、あるいは強い摩擦にさらされる部品もあります。

一次組立ての後の洗浄で油脂を落とし、二次組立てで注油し直し、グリースを塗り直します。121カ所をもれなく潤滑するためにも、詳細な指示書に従って作業を行います。

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A.ランゲ&ゾーネについて
ドレスデン出身の時計師フェルディナント・アドルフ・ランゲは、1845年に時計工房を設立し、ザクセン高級時計産業の礎を築きました。彼が製作した価値の高い懐中時計の数々は、今でも世界中のコレクターたちの垂涎の的となっています。第二次世界大戦後、東ドイツ政府によりA.ランゲ&ゾーネは国有化され事実上ブランドは消滅、一時はその名が人々の記憶から消え去ってしまうかと思われました。しかし1990年、フェルディナント・アドルフ・ランゲの曾孫ウォルター・ランゲがブランドを復活させます。現在では、ゴールドまたはプラチナのケースを使った腕時計が、毎年数千本のみ製作されています。A.ランゲ&ゾーネの時計には必ず、自主開発され、手作業で入念な装飾と組み立てを行ったムーブメントが搭載されています。1994年以降に開発された自社製キャリバーは63個を数え、A.ランゲ&ゾーネは世界でも最高峰の地位を確立しました。その代表作には、一般モデルとして初めてアウトサイズデイトを搭載しブランドを象徴するモデルとなったランゲ1や、瞬転数字式時刻表示を搭載したツァイトヴェルクがあります。まれに見る複雑機構を搭載するツァイトヴェルク・ミニッツリピーター、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨンおよびトリプルスプリットは、受け継がれてきた時計作りの技をさらに高めようとするA.ランゲ&ゾーネの真摯な姿勢を体現した時計です。

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